#小説部分
仁和寺の一角に悲鳴があがった。
このひとでなし!
なんというやつじゃ!
口汚い言葉を吐きながら、直衣を着た数人の公卿がそそくさと退散する。
見送るのは立ち姿のりりしい、男。
涼やかな目、整った顔立ち。
男は自分が潰した蛙をつまんで、ひょいと庭に投げ、呪を唱える。
そしてさして興味なさそうに男が立ち去る。
庭では死したはずの蛙が何事もなかったかのように跳ねていた。
「ほえ?」
一条戻り橋の上で、みぽりんは橋の下を覗き込んだ。
「何してるの?いくよ?」
姫巫女に声をかけられるが、ちょっと待っててくださいーといいながら橋の下に降りる。
「すずめさーん」と自分の式神を呼び、手にのせると橋の下の住人に声をかける。
「はじめましてです!みぽりんです。この子はすずめさん」
そして懐から飴を出すと「誰か」の手ににぎらせる。
「せっしょうさまの手作りです。おいしいのです。じゃあまたです!!」
言うだけ言うと、てくてくと藩王たちを追ってかけてゆく。
橋の下では、十二神将と式神が、飴を持って立ち尽くしていた。
「ここですね」
有馬信乃が門を見上げる。
声をかけようとしたとき、扉が開く。
出てきたのは美しい女。
「主がお待ちしております。お入りください」
一同が門をくぐると、ひとりでに門が閉まる。
「ほうほう、じどうどあですか」
「いえ、みぽりんさん違いますから」
苦笑いする雹。
「式神、ですね」
「ほうほう、お手伝いしてえらい式神さんです」
自分なりに結論づけて満足するみぽりん。
案内されたのは縁側だった。
華やかよりは丹精が目にとまるような、庭。
主は静かに庭に目をやっていた。
少し気崩れた、直衣。
横顔になんともいえない色気があった。
「一条の」
ほえ?という顔でみぽりんが小首をかしげる。
「怖くはなかったか?」
面白げに、つぶやくように尋ねる。
「いちじょう??なんですか?」
「橋の下の、見たのだろう?」
しばらく考えていたみぽりんは、ああと納得した。
「こわくないですのよ?この子と同じです」
そういって、自分の式神をなでるみぽりんに、安倍清明は笑った。
「でもなんで、橋の下ですか?」
「怖がる方がいらっしゃるのでね」
ほうほうとうなづくみぽりん。
「あ、そうだ。今日はお願いがあってきたです」
姫巫女を清明の前に出し、あとはまかせたというようににこにこしている。
「こんにちは、はじめまして」
「あなたは、藩王ですね。今日はどうされました?」
人の悪い笑みを浮かべながら清明が問う。
「皆を助けるための手を貸していただきたいのです。今、神聖巫連盟はかつてないほどの危機にみまわれています。私は皆を助けたい。」
清明は藻女藩王をじっと見つめる。
藻女藩王も、静かに清明の目をみつめていた。
「神聖巫連盟、いや、NWのことは聞いています。よろしいでしょう。無益な殺生はないにこしたことはない」
安倍清明は妻を連れ、神聖巫連盟に居を移した。
式神、十二神将も場所をたまわり、清明のやしき近くに住まう。
それにしても…。
「面白いところだね。ありとあらゆる物が同居して和している」
これも調和というのだろう。
紹介された仲間とともに、清明は調和を守るために動き出した。