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 ▼タンポポ  藻女@神聖巫連盟 07/7/27(金) 0:47
   ┗無題  藻女@神聖巫連盟 07/7/29(日) 20:17

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 ■題名 : タンポポ
 ■名前 : 藻女@神聖巫連盟
 ■日付 : 07/7/27(金) 0:47
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   「さようなら」
「いってきます」
次々とタンポポのわたげが飛んでいきます
そんな中、他の兄弟は旅立って行くのに一人だけ残っているわたげがいます
「やだ、ぼくは旅なんてしたくない。ずっとここにいる。」
「たとえ、ここにいても別れの時は来るんだよ。それに私はそれがつらい旅でも未来へ向かって飛び立って欲しいな。あなたが旅をできるのは生涯にこの一度の機会しかないのだから。その機会を無くして欲しくないな」
「慎ましくてもここで平和に暮らせるならわざわざ危険な旅をする必要なんてないよ。ぼくはそんな孤独の中で死んでしまうかもしれないことしたくない。たとえ短い命でも一緒にいれるならそれでいい」
「一人は確かに寂しいね。でも旅をしたら出会いだってあるかもしれない、そこで出会う子は今独りでいるかもしれないよ。孤独が怖いなら独りでいる寂しさもわかるよね。旅立てば、その誰かにも出会えるかもしれないよ。その可能性を捨ててまで、旅が嫌なのかい」
「誰かの孤独をなくす、それはとっても魅力的だよ。でも、そしたら母さんはどうなるの。ぼくが旅たてば母さんは一人になる」
「そんなことないよ、私は独りじゃない。たとえ離れていてもあなた達というかわいい子ども達がいる。後何度で会えるかわからないけれど、これから生まれてくる子供たちもいる。だから、大丈夫。私のことは気にせずいってらっしゃい。これから先どうなろうとあなたは私の子どもだから、だからあなたも一人じゃないよ、それを忘れなければあなたも大丈夫だから」
「そこまでいうなら、うん、わかった…。それじゃ母さんも身体に気をつけてよね。いってきます」
こうして、わたげの空の旅が始まりました
風にふわふわ飛んでいきます
そんなわたげの空の旅もおわる時が着ます
空高く飛んでいたわたげも、だんだん大地へ近づいていき
ようやく辿着いた場所は屋根の上でした
「着いたー。これからよろしくお願いします。でも、ぼくは疲れたので今はひとやすみさせてね。おやすみなさい」
わたげはそういうと返事もまたず屋根の隙間に入り込んで眠ってしまいました。
わたげは疲れていて気付きませんでしたが、ここにはわたげの落ちた家以外は誰もいません。
そして、その家にもわたげの声は小さくて届きませんでした。
その家はもう随分生きてきて、今では身体のあちこちが弱ってきています。
「もう私に住む人がいなくなってどれくらいたつのだろう、最後に私に住んでいた子ども達はどうしているのかな。」
そうして身体だけでなく、心も老いていきただ時の流れに身を委ねるようになり
「私は他の家と違って最後まで子ども達が住んでいてくれたから今でもこうして建っているけれど、誰も住まない家に意味なんてない。だから住む人がいなくなった時に死んでしまえばよかったんだ。あの頃から随分変わってしまった。私の身体ももう薄汚れ、整えられた庭も瓦礫だらけ、今では見る影もない。変わらないものは巡り来る季節とこの空だけ、それさえ今では私の身体を少しずつ瓦礫に近付けている事がよくわかる」
そういいながら家は空を見上げます。
そんな日々を過ごしているうちにわたげも目を覚まして屋根の隙間から芽を出しました。
「おはようございます。久しぶりのお日様です。」
わたげは元気よく挨拶しました。
そこで、わたげは周りには家しかいないことに気がつきました
「ここには家さんしかいなんだね。どうぞこれからよろしく」
家はそんなわたげには気がつきません。
それでも気にせずわたげは毎日「おはよう」、「日差しが気持ちいいですね」、「日が暮れましたね、ぼくはそろそろ眠ります。おやすみなさい」と挨拶しています。
そんな日々を幾度も繰り返すうちに、わたげもだんだんと成長して、家に届くくらいの声が出せるようになりました。
「おはよう、今日は綺麗な青空だね」
「…ん。いつの間にそんなところに、君も大変だね。そんなところに落ちてしまって」
「どうして大変なの」
「草木は大地に生きるのが似合っている。それをそんなところに…。だいいち、そんな所じゃ大きくなれっこないよ」
「それなら大丈夫。ぼくは孤独な人の隣で支えて生きたいと思って旅にでたから。あなたの傍にくることができただけでよかったって思っているよ。欲を言えばもっと仲良くなっていけたらいいなって思うけど」
「わざわざ仲良くする気はないけれど、喧嘩する理由もないからね。まぁ気が向いたら話し相手くらいはしてあげるよ」
こうして2人で過ごす日々が始まりました。
「白い雲がふわふわ飛んでいる。気持ちよさそうだね」
「君は空を飛んできたんでしょ。その時はどうだったの」
「ぼくが空を飛んだ時は旅立ったんだって気持ちで一杯だった」
「私は生まれたときから多分死ぬまでずっとここにいるし、私に住んでいた人達もここに住み着いてからは旅をしたりすることはなかったからわからない。」
「でもその分時の流れと共に変わっていく世界を見てきたのでしょ。どっちも同じようなものだよ」
「そうかもしれないね、でもそんな風に意識することはなかったよ。」
「後、身体はどこへもいけなかったとしても心は自由なんだよ。たとえこの場所から動けなくても想像の翼があれば旅はできるよ」
「私はもう旅ができるだけの想像力はないかな、もう年をとりすぎてしまったよ」
「心は年なんて関係ないよ。年をとってできないことができるのは仕方がないけど、心まで変わる必要はないんだよ。今出来ることでどうすればいいかを考えよう」
「そうだね、でも私には時間がないんだよ。私が死ぬと君も死んじゃうから私たちって言ったほうがいいかな。後一度嵐にあうだけで死んでしまうんじゃないかな」
「それじゃその時までをおもいっきり楽しまなくちゃね」
「君はそれでいいの。子どもを見送ることなく、それどころか花咲くことなく死んでしまうかもしれないんだよ」
「いつだって今を一生懸命生きる。独りじゃできなかったかもしれないけれどぼくは独りじゃないから大丈夫。死は怖いしつらいけど、独りじゃないから立ち向かえるよ。それに嵐にあうと死ぬかもしれないんでしょ。すぐに死ぬと決まったんじゃないんだから精一杯生きないともったいないよ」
「そうだね、せっかく友達ができたんだからもう少し一緒に居れるようがんばろうかな」
「うん、せっかく出会えたんだからもっとお話したい」
でも楽しい日々はあっという間に過ぎていきます
「ようやくぼくも花咲くことができたよ」
「よかったね、これで私の目標が一つ達成できたよ」
「えへへ、一人じゃないっていいね。ほめてもらうとなんだかくすぐったいけど嬉しいよ」
「そうだね、私も住んでくれる人がいてくれたときが一番生き生きしていた気がする。一人でいると何の為に生きているかわからなかったけど、最後に君に出会えてよかったと思うよ。でも君にはすまないと思っている、もし私が家としての役目を終えた時に死んでいたら、君はもっと長生きできただろうしもっと沢山の友達ができただろうから」
「そんなことないよ、もしあなたに出会えなかったら一人で花を咲かせていたでしょう。でもぼくは一人というのだけは怖いんです。一人寂しくて怖い思いをして生きるよりもあなたという友達ができた今に感謝しています。だから誤ったりしなくていいんだよ」
もう2人とも死がすぐ傍まで近づいていることに気付きながら、残された時間を懸命に生きています。
それでも時は止まることなく過ぎていきようやくわたげも綿毛をつけました
わたげの綿毛は旅たつ日を夢見てすやすや眠っています
わたげの子ども達は大きくなっていきあと少しで旅立つ日が来るというときがやってきました
「君が花を咲かせる姿を見れただけでも奇跡だと思ってたのにどうやら二つ目の目標も達成できそうだよ。このまま嵐さえ来なければいいんだけど」
「大丈夫だよ、ここまで着たんだからきっと子ども達は未来へ向かって飛び立てるよ」
そう明るく話し合った次の日
「少し風が強くなってきたけど大丈夫」
「まだなんとか、でもこれ以上風が強くなると厳しいかな」
「あと一日嵐が来るのが遅かったらもう少し優しく子ども達を旅立たせることが出来たんだけど、仕方がない。まだあまり風に乗れないかもしれないけどこの風だったらきっと子供たちを未来へつれてっていけるでしょう」
そういうとわたげは精一杯綿帽子を広げ始めました
そんな中、風はどんどん強くなっていきます
「あと少し、あと少しだけ持たせて」
「身体がきしみ始めているけど、少しだけは持つ、持たせて見せる。だから安心して」
そういうと家は最後の力を振り絞って風に耐えました
そうしてわたげが綿帽子を開く時間を作ることが出来ました
「ぼうやたち、あなた達はこの嵐に乗って未来へ旅立って。私はこの家さんと違う場所へ旅立つから。それじゃいってらっしゃい」
そういうと綿毛達の返事を聞くことなく綿毛を嵐に乗せて送り出しました。

嵐が去った後、家があった場所は瓦礫だらけの廃墟となり、屋根が崩れ落ちた時にタンポポも一緒に潰れてしまっていました。
その瓦礫の上へふわふわと嵐に運ばれてきた一つのわたげが落ちてきました。
このわたげはどんな生涯を送るのでしょうか
ですがそれはまた別のお話です
おやすみなさい

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 ───────────────────────────────────────  ■題名 : 無題  ■名前 : 藻女@神聖巫連盟  ■日付 : 07/7/29(日) 20:17  -------------------------------------------------------------------------
   遠い昔、天と地は仲良く寄り添って暮らしていました。
だから天と地の狭間で、動物達は這いつくばって暮らしていました
今でも這い歩く動物が大勢いるのはその頃の生き方が抜けきっていないからです
だけどある日、とうとう我慢できなくなって、動物達は広い海に行こうとみんなで海に行きました。
驚いたのは、魚達です
平穏に暮らしていたのに動物達が海にやってきてこのままじゃみんな食べられちゃう
そこで魚は動物達と話し合い、天がもっと高い所にあったら地上に帰ると約束しました。
魚達は天を高い所まで持っていくことができないので、海に天を高く押し上げて下さいとお願いしました。
でも海は天を高く持ち上げるには少し力が足りません。
そこで海は自分を引っ張り上げる月に天を持ち上げてもらえないか頼みました
月は快く引き受けて天を今のように高い所まで引っ張り上げてくれました。
地と離れ離れになった天は今も手を伸ばします
地に寄り添って生きていたいという思いだけで
いくら強い力を持っていても、触れる事さえ一瞬の事
それでも涙を流しながら、決して諦めることなく手を伸ばし続けます。
どれだけの歳月を超えても色褪せることなくただ一途に
地も少しでも天に近付こうと努力を続けています。
自らの身体が壊れることも気にせず、身体を歪め、血を噴出させて痛みに震えながら、それでも、天に近付こうとし続けているのです。
これは天が地に落ちるその時まで続いていくでしょう。
そのために天地の狭間で暮らす命を奪うことになろうともただ再び一緒になれる日を夢見て
めでたしめでたし

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